給与所得の金額は、その年の給与等の収入金額から給与所得控除額を引いた残額である(所得税法第28条第2項)。
給与所得控除額は収入に応じて5段階で決まる(同条第3項)。ただし収入が660万円未満の場合は、算式ではなく別表第五を使う(同条第4項)。この2つは同じ答えにならないことがある。
控除額の5段階
| 給与等の収入金額 | 給与所得控除額 | 条番号 |
|---|---|---|
| 190万円以下 | 65万円 | 所得税法第28条第3項第1号 |
| 190万円超 360万円以下 | 65万円+(収入−190万円)×30% | 所得税法第28条第3項第2号 |
| 360万円超 660万円以下 | 116万円+(収入−360万円)×20% | 所得税法第28条第3項第3号 |
| 660万円超 850万円以下 | 176万円+(収入−660万円)×10% | 所得税法第28条第3項第4号 |
| 850万円超 | 195万円(上限) | 所得税法第28条第3項第5号 |
660万円未満は別表第五による
所得税法第28条第4項は、収入が660万円未満の場合について、算式ではなく別表第五によると定めている。
別表第五は4,000円ごとの区分になっている。その区分に対応する給与所得控除後の金額が書かれており、区分の中では金額が動かない。そのため算式で計算した値と一致しないことがある(所得税法第28条第4項・別表第五)。
たとえば収入6,599,000円の場合、算式では給与所得控除後が4,839,200円になるが、別表第五では4,836,800円である。差は2,400円である。法が別表によると定めている以上、別表の値が正しい。
このページの計算は、660万円未満では別表第五を引き、660万円以上では別表第五に書かれた式を使っている。
別表第五には式で書かれた行が3つある
別表第五は数値の表だが、次の3つの区分だけは金額ではなく式で書かれている。
| 給与等の金額 | 別表第五の記載 |
|---|---|
| 651,000円以上 1,900,000円未満 | 給与等の金額から650,000円を控除した金額 |
| 6,600,000円以上 8,500,000円未満 | 給与等の金額に90%を乗じて算出した金額から1,100,000円を控除した金額 |
| 8,500,000円以上 20,000,000円未満 | 給与等の金額から1,950,000円を控除した金額 |
真ん中の行は「90%を乗じてから控除する」であって、単に1,100,000円を引くのではない。ここを取り違えると、660万円から850万円の答えが変わる(所得税法第28条第4項・別表第五)。
651,000円未満は0になる
給与等の収入金額が651,000円未満の場合、給与所得控除後の金額は0である(所得税法第28条第4項・別表第五)。
算式(所得税法第28条第3項第1号)をそのまま当てると、収入から65万円を引いて負の値になる。だが給与所得の金額が負になることはない。
算式と別表が両方ある。使い分けは収入で決まる
所得税法第28条は、給与所得控除額の出し方を2通り持っている。
| 給与等の収入金額 | 使うもの | 条番号 |
|---|---|---|
| 660万円未満 | 別表第五(給与所得控除後の金額を直接引く) | 所得税法第28条第4項 |
| 660万円以上 | 第3項の算式 | 所得税法第28条第3項 |
第4項は「前二項の規定にかかわらず」と書いている(所得税法第28条第4項)。660万円未満のときは算式ではなく別表が優先する。この道具は別表第五を法令から機械で取り出して使っている。 書き写していないので、写し間違いが起きない。
第3項の算式は5段
| 給与等の収入金額 | 給与所得控除額 | 条番号 |
|---|---|---|
| 190万円以下 | 65万円 | 所得税法第28条第3項第1号 |
| 190万円超 360万円以下 | 65万円 + (収入 − 190万円)× 30% | 同項第2号 |
| 360万円超 660万円以下 | 116万円 + (収入 − 360万円)× 20% | 同項第3号 |
| 660万円超 850万円以下 | 176万円 + (収入 − 660万円)× 10% | 同項第4号 |
| 850万円超 | 195万円 | 同項第5号 |
850万円を超えると195万円で頭打ちになる(所得税法第28条第3項第5号)。それ以上は収入が増えても控除額が増えない。
ただし660万円未満では、この算式ではなく別表第五を使う(同条第4項)。第2号・第3号の算式は、660万円未満の部分については実際には使われない。
別表第五は4,000円きざみ
別表第五は給与等の金額を4,000円ごとの区分で並べ、区分ごとに給与所得控除後の金額を書いている。 算式のように連続していない。
この4,000円きざみが、時点による差の出方を決めている。 現行と2024年4月1日時点の別表第五を比べると、差は一律ではなく、区分の切れ目でずれる。 給与収入190万円のすぐ手前では逆向きに1,800円の差が出る。詳しくはいつの条文で計算するかにある。
給与所得の金額は、控除後の残額
給与所得の金額は、その年中の給与等の収入金額から給与所得控除額を控除した残額である(所得税法第28条第2項)。
この残額が、合計所得金額の計算に入る。 基礎控除や配偶者控除の段を決めるのはこの後の額である。基礎控除・配偶者控除を参照。
特定支出控除で、さらに引ける場合がある
特定支出の合計額が給与所得控除額の2分の1を超えるとき、その超える部分を引ける(所得税法第57条の2第1項)。
この定めは所得税法第28条には無い。 別の条にある。給与所得者の特定支出控除を参照。
端数の扱い
所得税法第28条第3項の算式には端数の定めが無い。 別表第五(同条第4項)は4,000円きざみの区分で、区分ごとに金額が決まっているので端数が出ない。
よくある取り違え
1. 「給与所得控除は最低55万円」
現行の第1号は65万円である(所得税法第28条第3項第1号)。改正前は55万円だったので、改正前の知識のまま書かれていることがある。時点を選ぶと、その時点の別表で計算する。
2. 「算式で計算すれば別表と同じ」
同じにならない。 660万円未満は別表第五が優先し(所得税法第28条第4項)、4,000円きざみの区分になっている。算式は連続なので、端数の扱いが違う。
3. 「収入が増えれば控除も増える」
850万円を超えると195万円で止まる(所得税法第28条第3項第5号)。
4. 「103万円の壁は所得税法にある」
103万円という数字は所得税法第28条にも第2条にも出てこない。 給与所得控除と基礎控除の額を足した結果を、収入の側で言い直したものである。条文が見ているのは合計所得金額である。
5. 「別表第五は国税庁の表」
法律の別表である(所得税法別表第五)。国税庁が公表している表ではなく、所得税法そのものに載っている。
よくある質問
給与が2か所からある場合は
第2項は「その年中の給与等の収入金額」と書いている(所得税法第28条第2項)。合計した収入金額で判定する。
通勤手当も収入に入りますか
一定の通勤手当は非課税である(所得税法第9条第1項第5号)。所得税法第28条の給与等の収入金額には入らない。
年の途中で退職した場合は
所得税法第28条は年を単位にしている。 その年中の給与等の収入金額で計算する。
賞与も収入に入りますか
入る。 第1項が「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与」と書いている(所得税法第28条第1項)。
別表第五はどこまでの金額を載せていますか
660万円未満の範囲である(所得税法第28条第4項)。それ以上は第3項の算式で計算する。
住民税でも同じ給与所得控除ですか
地方税法は所得税法の計算の例による形をとっている。 給与所得の金額そのものは所得税法第28条で計算する。
所得税の計算のどこに入るか
給与所得控除は所得控除ではない。 所得税法第21条第1項第1号の段で、所得の種類ごとに金額を計算するときに使う。
基礎控除や扶養控除(第3号の段)より前である。 順番を取り違えると、合計所得金額の判定そのものがずれる。
この計算が扱っていないこと
- 特定支出控除(所得税法第57条の2)。別の道具にしている
- 非課税の通勤手当(所得税法第9条第1項第5号)
- 所得金額調整控除(租税特別措置法)