基礎控除は、合計所得金額が2,500万円以下である居住者について、総所得金額などから一定額を引く制度である(所得税法第86条第1項)。合計所得金額が2,500万円を超える場合、同項の対象から外れるため控除はない。
4段階と号番号
| 合計所得金額 | 控除額 | 条番号 |
|---|---|---|
| 2,350万円以下 | 58万円 | 所得税法第86条第1項第1号 |
| 2,350万円超 2,400万円以下 | 48万円 | 同項第2号 |
| 2,400万円超 2,450万円以下 | 32万円 | 同項第3号 |
| 2,450万円超 2,500万円以下 | 16万円 | 同項第4号 |
| 2,500万円超 | なし | 同項柱書の対象外 |
段の境目は「以下」で切れる
各号はいずれも「〜以下である場合」と書かれている(所得税法第86条第1項第1号〜第4号)。合計所得金額が2,350万円ちょうどのときは第1号で58万円、2,350万1円のときは第2号で48万円になる。
合計所得金額とは何か
第86条第1項でいう合計所得金額は、所得税法第2条第1項第30号に規定する合計所得金額である。そう読むことは第86条自身ではなく、所得税法第83条第1項第1号のかっこ書きが定めている(同号は「以下この項、次条第一項、第八十四条の二第一項及び第八十六条第一項(基礎控除)において『合計所得金額』という」と書いている)。中身は、総所得金額、退職所得金額および山林所得金額の合計額である(所得税法第2条第1項第30号イ(2))。給与だけの人は、給与収入から給与所得控除を引いた額がこれにあたる(給与所得控除の計算)。
基礎控除は配偶者控除や扶養控除と同じく所得控除であり、これらを引いた残額が課税総所得金額になる(所得税法第89条第2項)。税額は所得税の税率で計算する。
住民税の基礎控除は、額も段数も違う
所得税の基礎控除と住民税の基礎控除は、別の法律の別の条にある。金額も段数も一致しない。
| 合計所得金額 | 所得税 | 住民税 |
|---|---|---|
| 2,350万円以下 | 58万円(所得税法第86条第1項第1号) | 43万円(地方税法第314条の2第2項第1号) |
| 2,350万円超 2,400万円以下 | 48万円(同項第2号) | 43万円(同号) |
| 2,400万円超 2,450万円以下 | 32万円(同項第3号) | 29万円(地方税法第314条の2第2項第2号) |
| 2,450万円超 2,500万円以下 | 16万円(同項第4号) | 15万円(同項第3号) |
| 2,500万円超 | なし | なし |
所得税は4段、住民税は3段である(所得税法第86条第1項第1号〜第4号/地方税法第314条の2第2項第1号〜第3号)。住民税の側には58万円の段そのものが無い。
住民税は市町村民税と道府県民税に分かれており、同じ内容が2つの条に別々に書かれている。市町村民税は地方税法第314条の2第2項、道府県民税は同法第34条第2項である。金額はどちらも43万円・29万円・15万円で同じだが、「住民税の基礎控除は第◯条」と1つの条番号で言うことはできない。
住民税の所得割そのものは住民税の所得割と均等割にある。
令和7年の改正で3段から4段になった
現行の第86条第1項は4つの号を持つが、2024年4月1日時点の同項は3つだった。
所得税法第86条第1項を、2つの時点で並べる。
| 2024-04-01 時点 | 現行 | 条番号 | |
|---|---|---|---|
| 段の数 | 3段 | 4段 | 所得税法第86条第1項 |
| 一番大きい控除額 | 48万円 | 58万円 | 所得税法第86条第1項第1号 |
| 一番大きい額の上限 | 合計所得金額2,400万円以下 | 合計所得金額2,350万円以下 | 所得税法第86条第1項第1号 |
58万円の段が新しく入り、48万円の段の上限が2,400万円から2,350万円に下がった(所得税法第86条第1項第1号・第2号)。32万円と16万円の段は変わっていない(同項第3号・第4号)。
上の計算欄で時点を選ぶと、その時点の条文で計算する。e-Gov法令検索の法令APIが過去の時点の条文を返せるので、書き写した数ではなく、その時点の条文そのものから計算している。何が変わって何が変わらなかったかはいつの条文で計算するかにまとめてある。
端数の扱い
第86条第1項は端数について何も書いていない。 控除額は58万円・48万円・32万円・16万円のいずれかで、そのまま引く。
端数が出るのは、この後の課税総所得金額の段階である。課税総所得金額は1,000円未満を切り捨てる(国税通則法第118条第1項)。所得控除を引いた残額に端数があっても、基礎控除の側では丸めない。
よくある取り違え
1. 「基礎控除は48万円」
48万円は第2号の額である(所得税法第86条第1項第2号)。現行の第1号は58万円で、合計所得金額2,350万円以下ならこちらが当たる(同項第1号)。改正前は第1号が48万円だったので、改正前の知識のまま48万円と書かれていることがある。
2. 「2,400万円を超えると控除が無くなる」
無くなるのは2,500万円を超えたときである(所得税法第86条第1項柱書)。2,400万円超2,450万円以下では32万円、2,450万円超2,500万円以下では16万円が残る(同項第3号・第4号)。
3. 「住民税も58万円」
住民税の基礎控除は43万円である(地方税法第314条の2第2項第1号・同法第34条第2項第1号)。所得税の基礎控除が引き上げられても、住民税の側の条文が変わらなければ住民税の基礎控除は変わらない。
4. 「収入が2,350万円以下なら58万円」
見るのは収入ではなく合計所得金額である(所得税法第86条第1項第1号)。給与だけの人なら、給与収入から給与所得控除を引いた後の額で判定する(給与所得控除の計算)。
5. 「基礎控除は誰でも引ける」
合計所得金額が2,500万円を超える居住者には適用しない(所得税法第86条第1項柱書)。柱書が「合計所得金額が二千五百万円以下である居住者については」と対象を限っているためである。
よくある質問
合計所得金額に退職金や山林所得は入りますか
入る。 合計所得金額は、総所得金額・退職所得金額・山林所得金額の合計額である(所得税法第2条第1項第30号イ(2))。退職所得は分離課税だが、この判定では合計する。退職所得の金額は退職所得と退職所得控除で計算できる。
給与所得控除と基礎控除はどちらが先ですか
給与所得控除が先である。 給与所得の金額は給与収入から給与所得控除額を引いて出す(所得税法第28条第2項)。基礎控除はその後の所得の合計から引く所得控除である(所得税法第86条第1項)。順番が逆になると、合計所得金額の判定そのものがずれる。
配偶者や扶養親族の側にも基礎控除はありますか
ある。 基礎控除は居住者ごとに適用される(所得税法第86条第1項)。ただし配偶者控除の対象になる控除対象配偶者には合計所得金額の要件があり(所得税法第2条第1項第33号)、その要件の判定は基礎控除とは別に行う。配偶者控除を参照。
年末調整で基礎控除は引かれますか
引かれる。 ただし合計所得金額が2,400万円を超えると段が変わるため、その判定に必要な申告書の提出が要る。申告書の様式そのものは所得税法第86条には書かれていない。
非居住者にも基礎控除はありますか
第86条第1項は「居住者については」と書いている。 非居住者の課税は所得税法第164条以下にあり、この道具は第86条の居住者だけを扱っている。
2,350万円ちょうどのときはどちらの段ですか
第1号の58万円である。 第1号が「二千三百五十万円以下である場合」と書いているためである(所得税法第86条第1項第1号)。第2号は「二千三百五十万円を超え」から始まる。
控除しきれなかった分は繰り越せますか
繰り越せない。 所得税法第86条には繰越しの定めが無い。繰り越せるのは純損失(所得税法第70条)と雑損失(同法第71条)である。純損失の繰越控除を参照。
所得税の計算のどこに入るか
所得税法第21条第1項が、計算の順序を5段に決めている。
| 段 | 何をするか | 条番号 |
|---|---|---|
| 第1号 | 所得を10種類に区分し、種類ごとに金額を計算する | 所得税法第21条第1項第1号 |
| 第2号 | 総所得金額・退職所得金額・山林所得金額を計算する | 同項第2号 |
| 第3号 | 基礎控除その他の控除をして、課税総所得金額を計算する | 同項第3号 |
| 第4号 | 課税総所得金額に税率を当てて所得税の額を計算する | 同項第4号 |
| 第5号 | 配当控除・外国税額控除などの税額控除を引く | 同項第5号 |
基礎控除は第3号にある。 税額から引くのではなく、税率を当てる前の所得から引く。配当控除(所得税法第92条)や外国税額控除(同法第95条)は第5号で、こちらは税額から引く。この違いを取り違えると、控除額そのものは同じでも税額が変わる。
第21条第1項第3号は「基礎控除その他の控除をして」と、基礎控除を名指しで挙げている。所得控除のうち条文に名前が出ているのは基礎控除だけである。
所得控除の順序
雑損控除だけは、必ず先に行う(所得税法第87条第1項)。
第87条第1項は、雑損控除と次の14の控除とを行う場合に、まず雑損控除を行うと書いている。
- 医療費控除/社会保険料控除/小規模企業共済等掛金控除
- 生命保険料控除/地震保険料控除/寄附金控除
- 障害者控除/寡婦控除/ひとり親控除/勤労学生控除
- 配偶者控除/配偶者特別控除/扶養控除/特定親族特別控除/基礎控除
基礎控除どうし、あるいは基礎控除と他の所得控除のあいだに順序は無い。 第87条が順序を決めているのは雑損控除だけである。理由は雑損控除に繰越し(所得税法第71条)があるためで、先に引かないと繰り越す額が変わる。
引く先の順序は第87条第2項にある。総所得金額・山林所得金額・退職所得金額から順次控除する。
- 雑損控除は雑損控除
- 医療費控除は医療費控除
- 本人の事情による控除は寡婦控除・ひとり親控除・勤労学生控除
合計所得金額と総所得金額等は別のもの
名前が似ているが、指しているものが違う。
| 語 | 中身 | 条番号 |
|---|---|---|
| 合計所得金額 | 総所得金額・退職所得金額・山林所得金額の合計 | 所得税法第2条第1項第30号イ(2) |
| 総所得金額 | 利子・配当・不動産・事業・給与・譲渡・一時・雑を合算したもの | 所得税法第22条第2項 |
基礎控除の段を決めるのは合計所得金額のほうである(所得税法第86条第1項各号)。総所得金額だけで判定すると、退職所得や山林所得がある人で段がずれる。
なお、医療費控除の足切り(所得税法第73条第1項)や寄附金控除の上限(同法第78条第1項)が見ているのは「総所得金額等」で、これもまた別の語である。条文が使っている語をそのまま読むこと。
条文の言い方をそのまま読む
所得税法第86条第1項の柱書は次のように書いている。
合計所得金額が二千五百万円以下である居住者については、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額を控除する
ここから3つのことが読める。
- 対象は「合計所得金額が2,500万円以下である居住者」に限られる(所得税法第86条第1項柱書)。2,500万円を超える人は各号を見るまでもなく対象外である
- 引く先は「総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額」である。 総所得金額だけではない
- 額は「各号に定める金額」である。 柱書自身は金額を書いていない
同条第2項は「前項の規定による控除は、基礎控除という」とだけ書いている。名前を決めているのは所得税法第86条第2項であって、第1項ではない。
何を入れれば正しく計算できるか
上の計算欄に入れるのは合計所得金額である(所得税法第86条第1項各号)。給与だけの人は次の順で出す。
- 給与収入から給与所得控除額を引く(所得税法第28条第2項)→ 給与所得控除の計算
- 他に所得があれば足す(所得税法第22条第2項)
- 退職所得と山林所得があれば足す(所得税法第2条第1項第30号イ(2))
社会保険料控除や生命保険料控除を引く前の額である。 それらは基礎控除と同じ所得控除で、合計所得金額を出した後に引く(所得税法第74条・第76条)。引いてから判定すると段がずれる。
- 社会保険料控除は全額が控除される保険料と掛金
- 生命保険料控除は生命保険料控除
この計算が扱っていないこと
- 住民税の基礎控除(地方税法第314条の2第2項・同法第34条第2項)。額も段数も違う。住民税の所得割と均等割を参照
- 非居住者(所得税法第164条以下)。第86条第1項は「居住者については」と書いている
- 年末調整で段を判定するための申告書の様式。所得税法第86条には書かれていない
- 復興特別所得税(東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法第13条)